タイムブロッキングとは

タイムブロッキングとは、一日の時間を目的別の「箱」に分け、各ブロックにやるべき仕事をあらかじめ割り当てる時間管理術です。やるべきことのリストを眺めて優先順位に迷うのではなく、まず時間を設計してから作業を割り振るという発想に転換することで、意思決定の回数を減らし、集中状態への移行を早めます。
多くの生産性研究は、計画を「いつ・どこで・どのように」行うかまで具体化すると実行率が高まる、と示唆しています。タイムブロッキングは、まさにこの具体化を担う手法です。特に、深く思考する時間を確保したい人にとっては、フロータイムテクニックとの相性も良く、「ブロックの中では『集中力の切れ目』で作業を止める」という役割分担が効果的です。
カレンダーで「箱」を設計し、その中では切れ目を観察しながら作業する、と捉えるといいと思います。
提唱者の一人であるカル・ニューポート氏は「一日の全ての時間に役割を与える」と述べ、前日の夜に10〜20分かけて翌日の計画を立てることを推奨しています。予定が変わっても計画線を書き直すだけ、というシンプルな運用が、継続の鍵を握ります。
タイムブロッキングが有効な四つの理由

実行意図で行動を固定する
タイムブロッキングがなぜ有効なのか、行動科学の観点から四つの理由を解説します。
第一に、行動を促す「実行意図」の仕組みが働きます。研究によれば、目標を「もし(if)〜の状況になったら、そのとき(then)〜する」という具体的な計画に落とし込むほど、行動に移しやすくなることが分かっています。タイムブロッキングは、まさに「もし午前10時になったら、企画Aの草案を書く」というように、状況と行動を結びつける枠組みとして機能します。これにより、抽象的な「やるぞ」という意気込みが、「この時間、ここでこれをやる」という明確な行動計画に変わり、迷う余地がなくなります。
スイッチコストを削減する
第二に、作業の切り替えに伴う「スイッチコスト」を削減できます。
人は一日のうちで頻繁に作業を切り替えるだけで、処理速度の低下やエラーの増加といった代償を払っています。これは、課題AからBに移るたびに、頭の中の「作業セット」を組み替える操作が必要になり、その都度わずかな時間と認知資源が失われるためです。
あるレビュー論文は、たとえ準備時間があってもスイッチコストはゼロにならないと報告しています。また、割り込み後に元の集中状態へ戻るには、想定以上に時間がかかることも分かっています。したがって、関連する仕事を一つのブロックにまとめ、短時間での頻繁な切り替えを避ける設計が合理的です。
割り込みによる負荷を抑える
第三に、精神的な負荷を増大させる割り込みを防ぎます。ある実地研究では、割り込みは作業を遅らせるだけでなく、ストレスやフラストレーションを増加させることが示されています。人は割り込みを埋め合わせようとして無意識にペースを上げますが、その反動として精神的な負荷が高まるのです。
タイムブロック中は通知を切り、終了時にまとめて応答する方が、一日を通した質の高い状態を維持しやすくなります。復帰までの損失時間は平均分数で語られがちですが、そもそも「元の作業に戻る手間」そのものを設計段階で減らすという発想が重要です。
計画錯誤を補正する
第四に、時間見積もりの精度を高める効果があります。人は、作業にかかる時間や手間を体系的に少なく見積もる傾向があります。この「計画錯誤」と呼ばれるバイアスは、客観的なデータではなく、自分の理想的なシナリオに基づいて見積もりを立てるために生じます。
タイムブロッキングを実践すると、まず仮のブロックを置いてから「実際には時間が足りたか、余ったか」を実績で検証できます。これにより、数日で時間見積もりの精度が目に見えて改善します。発生した誤差は失敗ではなく、翌週のブロック幅を調整するための貴重なデータとなります。
では、ブロックの長さはどのように決めればよいのでしょうか。唯一の正解はなく、「仕事の性質に合わせて変える」のが基本です。休憩の取り方については、短い休息が疲労の蓄積を抑え、パフォーマンスと活力を改善するというメタ分析があります。重要なのは、固定された分数や時間に従うのではなく、一日の合計作業時間に対して適切な比率の休憩を確保することです。
私の経験則として、稼働時間の20〜25%を休息に充てると、息切れせずに後半のパフォーマンスを維持しやすくなると考えたことと、そのテクニックであるフロータイムテクニックを知ったことで、FlowTime - Focus Timerを開発しました。フロータイムテクニックの完全ガイドはこちらの記事で、フロータイムテクニックの始め方はこちら。
ある観察研究でも、最も高い生産性を示した利用者は、この「働く時間と休む時間の比率」を重視していました。各ブロックの最後に休息のための「余白」を設けておくのが、安全な設計と言えます。
午前と午後でブロックの設計を変えることで、一日のパフォーマンスはさらに安定します。日内リズムやクロノタイプ(朝型・夜型など)に関する研究は、時間帯や個人差によって認知能力が変動することを示しています。
例えば、朝型の人は早い時間帯に複雑な思考を要する作業を、夜型の人は午後に長い作業ブロックを配置すると、無理なく能力を発揮しやすくなります。週単位で計画を立てる際は、自分の集中力のピーク時間帯に「創造的で不確実性の高い仕事」を、逆に集中力が落ちる時間帯には会議や定型作業を割り当てる、といった工夫が効果的です。
フロータイムテクニックとの併用は、実際の運用において非常に強力な組み合わせです。まずタイムブロッキングで「いつやるか」という時間を確保し、そのブロックの中ではフロータイムの原則に従って「集中力の切れ目サイン」が出たら作業を止めます。
視線がさまよう、判断が遅れる、同じミスを繰り返す、といったサインは、ブロックの途中でも一旦休憩すべき合図です。特に創造的な課題では、作業から一時的に離れることが、かえって良いアイデアにつながることもあります。作業を再開する際は、「次の一歩を一文で書く」「三回深呼吸する」「二分だけ手を動かす」といった簡単な手順で十分です。
フロータイムテクニックの解説記事も合わせて参考にしてみてください。
タイムブロッキングの作り方

ここからは、実際のタスク作業の制約を前提とした具体的なブロックの作り方を解説します。
まず、前日の終業時に翌日一日を概観し、会議など固定された予定を先にカレンダーへ配置します。次に、その日最も重要なタスクを二つまで選び、集中力の高い午前中に長めのブロックとして確保します。午後は、意思決定による疲れを考慮して、短めのブロックを複数並べるのがよいでしょう。
各ブロックの終わりには5〜20分程度のクールダウンの時間を必ず設け、次の作業の準備、メモの整理、移動などに充てます。ニューポート氏が強調するように、ブロックを絶対的なものと考えず、柔軟に「計画線を書き直す」ことが重要です。実際の進捗に合わせてペンで予定を修正し、「今日は2割ほど遅れた」などと可視化することが、翌日の時間見積もりを改善する材料になります。
ブロックの幅は、仕事の種類によって変えるのが基本です。例えば、不確定要素の多い課題や、仮説を立てて検証するような仕事は、集中状態に入るまでに時間がかかる一方、一度集中すると中断したくない性質があります。そのため、一つのブロックを長めに設定し、思考の流れを優先するのが得策です。これに対し、レビューや承認、メール返信といった細切れの作業は、短いブロックにまとめて処理する方が、切り替えに伴う認知的な負担が少なくなります。これは単なる感覚的な話ではなく、前述したスイッチコストの研究結果とも一致する合理的な方法です。
休憩は単なる気分転換ではなく、次の作業ブロックに向けた準備と捉えると生産性にも影響すると考えられています。
短い散歩、視点を遠くへ移す、姿勢を正す、呼吸を整えるといったリラックス行動は、2〜3分でも効果が見込めると報告されています。あるメタ分析も、こうしたマイクロブレイク(短い休憩)が活力の回復に寄与し、作業成績にも良い影響を与える可能性があると結論づけています。
画面から目を離して遠くを見る、肩甲骨周りを動かす、ゆっくり呼吸するなど、簡単なことで十分です。ブロックの最後に「余白」を設け、次のブロックへスムーズに移行するための助走期間だと考えましょう。
タイムブロッキングを失敗させないための知識
タイムブロッキングでつまずきがちな点も、あらかじめ知っておくことで回避しやすくなります。
第一に、予定を詰め込みすぎることです。余白のないカレンダーは、急な割り込みに対応できず、一つが崩れるとドミノ倒しのように計画全体が破綻します。十分なマージンを確保し、調整が必要な場合は「余白を削る」形で対応しましょう。
第二に、集中時間の境界管理が甘くなることです。スマートフォンの通知をオフにする、ドアにサインを掲示する、チームに「この時間帯は応答が遅れます」と事前に伝えるなど、環境を整えることが先決です。
第三に、完璧主義に陥ることです。計画通りに進まない日は必ずあります。重要なのは、その日の終わりに「どのタスクが計画からあふれたか」「なぜそうなったか」を簡単に記録し、翌日の計画に反映させることです。人は過去の実績を客観的に評価するのが苦手なため、「記録を見て計画を修正する」というサイクルを意識的に習慣化しましょう。
チームや企業でタイムブロッキングを導入するのは、個人で行うより少し難しくなりますが、基本原則は同じです。例えば、チーム内で「いつでも応答可能な時間」と「集中作業のための時間」を週単位で共有し、会議は特定の時間帯にまとめて配置します。スイッチコストの研究に照らせば、会議が分散していると細かな作業の切り替えが増えるため、集中時間を確保する観点からも会議を集約する方が合理的です。チーム全体の合意形成が難しい場合でも、自分のカレンダーに「集中作業(自分との会議)」といった予定を入れてブロックを確保し、他の人から空き時間に見えないようにするだけでも、一定の効果はあります。
「52分働いて17分休む」といった具体的な比率の目安についても触れておきます。これらは、ある時間計測ツールの利用ログ分析から見出された、生産性の高いユーザーの行動パターンです。ただし、その後の調査では最適な比率が変化しているという報告もあり、働き方や職務内容によって最適な比率は変動します。ここで重要なのは、特定の分数を絶対的なルールとせず、「比率」で考えるという発想そのものです。自身の業務内容やその日の体調に合わせて、一日の稼働時間のうち20〜25%程度の休憩をいかに確保するか、という視点で計画を立ててください。
自身のクロノタイプ(朝型・夜型)を考慮することも、タイムブロッキングの効果を高めます。朝型か夜型かによって、集中力や作業精度が高い時間帯は異なります。睡眠不足などの影響も重なるため、例えば「午前中の長いブロックで成果が出ない」と感じたときは、自分を責めずに時間帯の配置を変えて試してみましょう。もし午後にかけて集中力が高まるタイプなら、その時間帯に創造的な作業を配置し、午前中は準備や単純作業に充てるのが現実的な戦略です。
フロータイムとの併用ポイント
最後に、フロータイムテクニックとの併用を前提とした運用のコツを三点紹介します。第一に、計画は大まかに立て、日々の実践を通じて精度を上げていくことです。予定が変わったら迷わず計画線を書き直し、簡単な理由をメモしておきましょう。これを繰り返すだけで、1週間後には時間見積もりの誤差が目に見えて小さくなります。第二に、ブロックの内側では「切れ目のサイン」を最優先し、作業を中断することです。集中が途切れたサインが出たら、ブロックの残り時間を気にせず休憩しましょう。再開は「次の一歩をメモする」「深呼吸する」「2分だけ試す」といった簡単な手順で十分です。第三に、ブロックから次のブロックへ移るための「橋」を意識することです。前のブロックの最後に次やるべきことを一行メモで残しておけば、休憩や割り込みを挟んだ後でもスムーズに作業に戻れます。この「橋渡し」は、スイッチコストを軽減するという研究知見とも合致します。
兄弟アプリyattask.appで公開中のタイムブロッキング解説記事も、本記事を補完するものとして役立ちます。そちらでは概念の定義から日常的な実践方法、初心者が陥りやすい問題点までを網羅しているため、本記事と併読することで「設計思想」と「実践手順」の両方が理解できます。
タイムブロッキング実践入門――二週間パイロット、日内シナリオ、計測と立て直し
タイムブロッキングを実践するための具体的な手順に踏み込みます。2週間の試行期間(パイロット)の設計から始め、会議の多い日と少ない日の実践シナリオ、計測すべき指標と計画が崩れた際の立て直し方、そして「うちの職場では無理だ」といった典型的な疑問への回答までを、フロータイムテクニックとの分業を軸に解説します。
計画段階で**「箱」を先に置き、当日の作業は「サイン」で進める。この基本構造を2週間で習慣にすれば、翌月からは簡単な調整だけで実践を続けられるようになります。カル・ニューポート氏が提案するように、毎朝(あるいは前夜)10〜20分でタイムブロックを作成し、日中は状況に応じて上書きするという運用を前提とすることで、現実に即した柔軟な計画管理が可能になります。計画とは守るべきものではなく、状況に合わせて書き換えることを前提とした道具**だと捉え直しましょう。
第一週は「箱に慣れる」ことを目標にします。まず週の初めに、最も重要な「深い作業」を2〜3個だけ選び、時間を確保します。この段階では完璧を目指す必要はありません。目的は作業開始の心理的なハードルを下げることであり、計画を最適化することではないからです。「いつ・どこで・何をするか」を事前に決めておくと行動に移しやすくなることは、「実行意図」に関する研究で繰り返し示されています。つまり、深い作業のための時間を明確に確保し、その時間になったら「まず何から始めるか」まで決めておくことが、先延ばしを防ぎ、スムーズな開始につながります。
第一週の各日は、まず朝一番に「今日の計画」を簡単に見直し、最初の深い作業を最も集中できる時間帯に配置します。ここからは、ブロックの内側の進め方をフロータイムテクニックに切り替えます。作業を終えるタイミングは時計ではなく、自分自身の「サイン」で判断します。視線がそれたり、同じ文を何度も読み返したり、簡単な判断に迷ったり、入力ミスが増えたりしたら、それは休憩のサインです。休憩の長さは固定せず、比率で考えましょう。一日の稼働時間の20〜25%を休憩に充てるという目安は、日々の体調変化に対応しつつ、疲労の蓄積を防ぐ上で有効です。短い休憩の効果はメタ分析でも裏付けられており、10数分程度のマイクロブレイクでも活力の回復や疲労感の軽減に繋がることが確認されています。
第二週は「計画を現実に合わせる」ことを目指します。第一週の実践で見えた課題を踏まえ、会議や問い合わせ対応などは**「反応的な作業」として一つのブロックにまとめます。また、割り込みが入りやすい時間帯には、それらを処理するための「バッファ(緩衝)時間」を設けておくとよいでしょう。作業の切り替え頻度を意図的に下げることで、切り替え直後に発生するスイッチコスト**の蓄積を抑えられます。タスクの切り替えに関する研究が示すように、たとえ準備時間があっても認知的な損失はゼロにはならないため、計画段階で切り替えの回数そのものを減らすことが合理的です。
計測する項目はシンプルにしましょう。例えば、始業から終業までの主観的な疲労度、フロータイムの停止サインが出るまでの時間、サインが出た後に作業を再開するまでにかかった時間、そして小さなミスの回数などを記録します。ここで重要なのは、「計画が崩れた理由」を追求するよりも、「どのような工夫をすれば、より早く作業に戻れたか」という復帰のしやすさに注目することです。研究によれば、人は中断されると無意識にペースを上げて遅れを取り戻そうとし、その結果としてストレスや焦りを感じやすくなる傾向があります。だからこそ、スムーズな再開を促す工夫(最後にメモを残す、次の一歩を宣言する、1〜3分の短い休憩を取るなど)が、計画全体の安定性を高める鍵となります。
会議が多い日のシナリオでは、まず午前中の早い時間帯に一つだけ長い集中ブロックを確保します。午後は、会議の前後などに短い作業ブロックを配置するのが有効です。会議の直前に数分使って資料に目を通し、会議後には決定事項や「次の一歩」をメモしておくと、思考の連続性が保たれます。急な割り込みは、あらかじめ設けたバッファ時間で対応し、集中ブロックへの影響を最小限に抑えましょう。逆に、会議が少ない日は、午前に二つ、午後に一つの長い集中ブロックを配置し、その間には十分な休憩を取ります。こうした使い分けは単なる好みの問題ではなく、タスク切り替え直後には反応の遅れやエラー率の上昇が起きやすいという研究結果に基づいた、合理的な戦略です。
休憩の取り方は、時間を固定せず状況に応じて変えるのが原則です。マイクロブレイクに関するメタ分析でも、短い休憩は活力の回復や疲労の軽減に良い影響を与えるものの、作業の成績にどう影響するかはタスクの種類に依存する、とされています。つまり、「いつ、何分休むのが最適か」という問いの答えは、仕事の性質やその時の状況によって変わるのです。だからこそ、フロータイムの「サイン」に従って作業を中断し、ブロックの内側で休憩時間を柔軟に調整する方が、現実的で安全な方法と言えます。
「52分作業して17分休憩する」という有名な比率については、あくまである時点での観測データだと理解することが重要です。これは、生産性の高い人々の行動を分析した結果、当時はその比率が平均的に見られたという報告に過ぎません。その後の調査では、最適な比率が別の値に変化したという報告もあります。ここから学ぶべきなのは、唯一の正解となる時間は存在せず、最適な比率は時期や環境によって変わるという事実です。この比率はあくまで目安と考え、フロータイムのサインを優先し、2週間ごとなど定期的に「今の自分に合う比率」を見直すのが現実的なアプローチです。
ここで、よくある反論にも答えておきましょう。「予定通りに進まないのだから、タイムブロッキングは机上の空論だ」という意見に対しては、「計画は上書きが前提である」という考え方が答えになります。提唱者のニューポート氏も、日中に生じるズレをその都度計画を修正することで吸収するよう強く勧めています。つまり、朝立てた計画を守ることではなく、現実に合わせて柔軟に書き換えることこそが正しい使い方なのです。計画の修正をためらう気持ちが、かえって「理想通りにいかない」という挫折感を生み、翌日以降の計画にも悪影響を及ぼします。修正に抵抗がある人ほど、「毎日必ず一度は計画を見直す」という行動を習慣化してみると、数日でその有効性を実感できるでしょう。
次に、「タイムブロッキングは集中状態(フロー)を妨げるのでは?」という懸念には、役割分担で対応します。ブロックという「時間枠」は予定として確保し、その「内側」での作業の進め方はフロータイムのサインを優先するという考え方です。
集中が乗っているときは時間を延長し、集中が落ちてきたら早めに休憩に入る。こうすることで、時間の「枠」と集中の「質」の両方を守ることができます。加えて、割り込みによる害は、「中断後にペースを上げて遅れを取り戻そうとすることで、かえってストレスや焦りが増す」という形で現れることが分かっています。タイムブロックで深い作業の時間をあらかじめ確保しておくことは、こうした副作用を未然に防ぐための設計上の工夫と言えます。
タイムブロッキングを定着させるために、最後に二つの簡単な習慣を紹介します。一つは**「前夜の3分間計画」です。寝る前に、翌日の最も重要な作業をいつ行うか決め、その「最初の一歩」を一文でメモしておきます。実行意図の研究が示すように、この小さな準備が翌朝の行動開始をスムーズにします。もう一つは「日中、最低一回は見直す」**ことです。昼食後などのタイミングで計画の進捗を確認し、ズレている部分があれば線を引いて修正します。これを毎日続けることで、「理想の計画」に固執するのではなく、「現実に即した計画」を運用する感覚が身につきます。
この2週間を実践すれば、あとは簡単なメンテナンスを続けるだけです。週単位では、深い作業ブロックの数と配置を見直し、忙しい曜日にはあえて余白を設けます。日々の運用では、朝一番にその日の計画を見直し、状況の変化はためらわずに計画へ上書きします。
そしてブロックの内側は常にフロータイムの原則で進め、サインで休み、比率で休憩を取り、次の一歩のメモから再開します。これさえ守れば、会議や割り込みが多くても、「予定で時間を守り、サインで質を守る」という二段構えは崩れません。タイムブロッキングはあなたを縛る檻ではなく、集中と心身の健康を守るための盾(シールド)なのです。研究が示すように、切り替えの負荷そのものを計画段階で減らし、それでも生じる負荷は休憩で柔軟に受け止める。この発想を軸にすれば、日々の生産性は無理なく向上していくでしょう。
まとめると、タイムブロッキングとフロータイムを組み合わせた運用とは、「箱(時間枠)」は予定として確保し、その中での進め方は「サイン」を優先する、ということです。箱を描くことで「いつ、何をするか」という迷いをなくし、サインで止めることで集中の質を維持します。休憩は固定せず比率で考え、割り込みはバッファ時間で吸収する。計画は毎日見直し、定期的に自分に合った休憩比率を探す。これが、現実に即したタイムブロッキングの実践法です。これらの原則を土台にすれば、明日からの一日は、「箱」で守られた広場のように、見通しの良いものになるはずです。
よくある質問
本文の要点を踏まえて重要度の高い順にまとめた「よくある質問(FAQ)10選」です。根拠が必要な項目は出典も添えています。
Q. タイムブロッキングとは? 何が狙い?
A. 一日の時間を目的別の「箱(ブロック)」に割り当て、すべての時間に役割を持たせる手法です。判断や迷いを減らし、深い作業に入る立ち上がりを短縮します。予定が崩れたら、その都度計画修正する前提で運用するのが基本です。
Q. どう始めればいい?
A. 前夜に10〜20分だけ使って翌日のブロック案を描き、当日は進捗や割り込みに応じて何度でも書き直します。ブロック内部ではフロータイムのサインに従い、集中が落ちたら休む。
Q. なぜ行動に移しやすくなるの?
A. 「もし午前10時になったらAの草案を書く」といった実行意図 (if‑then プラン) が、その場の迷いを減らし行動率を上げると複数のメタ分析が示しています。タイムブロッキングは時間と行動を結び付ける実装そのものです
Q. マルチタスクの切替コストは抑えられる?
A. 完全にはゼロにできませんが、関連タスクを同じブロックにまとめて切替回数を減らすと反応遅延やエラー増加を最小化できます。古典的レビューでもタスク切替直後の性能低下が確認されています。
Q. タスクの割り込み対策は?
A. 割り込み後は無意識に速度を上げて挽回しようとし、その反動でストレスや時間圧が増えると実地研究が示しています。集中ブロック中は通知を切り、応答はまとめて処理する運用が安全です。
Q. ブロックの長さや休憩は固定すべき?
A. 固定分数は存在せず、仕事の性質に応じて可変にします。10分以下のマイクロブレイクは活力回復と疲労軽減に一貫した効果があり、稼働時間の20〜25%を休憩へ充てる比率設計が現実的です。実務観測では52/17のほか112/26や75/33も報告されており、比率思考が推奨されます。
Q. 計画錯誤はどう補正する?
A. 予定ブロックと実績時間の差を毎日メモし、翌週のブロック幅を調整するサイクルを回します。人は系統的に工数を過小見積もりするため、データで上書きするのが最短経路です。
Q. 午前/午後やクロノタイプで配分は変える?
A. 体内時計と睡眠状態で注意力は変動します。最も冴える帯には創造的・不確実な仕事を置き、低下帯には会議や定型を集約。睡眠不足日はピークが鈍るので、予定の難度を下げる・余白を確保するのが安全です。
Q. 計画が崩れたときフローを壊さないコツは?
A. 「ブロックは枠、進め方はサイン優先」と割り切ります。集中が乗っているときは延長し、落ちたら休憩。リライトは何度でも良く、再開の橋渡しとして「次の一歩を一文メモ」しておくと速く戻れます。
Q. 会議が多い・チーム導入時の注意点は?
A. 会議を時間帯ごとに集約し、集中ブロックと応答可能時間を明示的に分けます。個人でも「自分との会議」をカレンダーに入れて空き時間に見せない工夫を。断片化が生産性を落とすという実地観察に基づく対策です。
参考情報
- Cal Newport“Deep Habits: The Importance of Planning Every Minute of Your Work Day” と “Text File Time Blocking”。タイムブロッキングを「一日のすべての分に仕事を与える」方法として解説。
- Gollwitzer, P.「Implementation Intentions」。if-then形式の実行意図が行動化を促進するメカニズムを概説。
- Monsell, S.「Task switching」。切替に伴う不可避のコストを総説。
- Mark, G.「The Cost of Interrupted Work」。割り込みが速度・ストレス・フラストレーションに及ぼす影響。
- Albulescu, P.「Micro‑breaks の系統的レビューとメタ分析」。短い休止の効用を検証。
- Buehler, R.「Planning Fallacy」。時間見積りの過小評価バイアスの実証。
- Goel, N.「Circadian Rhythms, Sleep Deprivation, and Human Performance」。時間帯と覚醒水準の関係。
- Chris Bailey「For optimal productivity, be on break for 20–25% of the workday」。比率思考による休憩設計の提案。
- DeskTime Blog「52/17」「112/26」「75/33」の観察結果。休憩比率の考え方の参考として。
- yattask.app「タイムブロッキング」。日本語の実装ガイド。
おまけ:タイムブロッキングの類似テクニック比較表
| テクニック | 定義・運用(代表的なやり方) | 時間の決め方 / 休憩 | 向く仕事 |
|---|---|---|---|
| タイムブロッキング | 一日の時間を「箱(ブロック)」に分け、特定のタスク/タスク群を割り当てて運用する。前夜に設計し、当日に上書き修正。 | ブロック長はタスクの性質で可変。各ブロック末尾に余白。休憩は比率設計(例:稼働の20〜25%)。 | クリエイティブ、研究、設計など長めの集中が必要な仕事。 |
| フロータイム(Flowtime)/Flowmodoro | セッション内で「集中の切れ目サイン」を基準に止める・休む。固定分ではなく自己観察で運転。 | 作業・休憩とも可変。サイン優先。 | 乗ったら止めたくない創造・設計・解析。 |
| ポモドーロ・テクニック | 25分作業+5分休憩を1セットとし、4セットごとに長休憩。 | 固定サイクル(25/5等)。 | 反復タスク、学習、先延ばし対策。 |
| タスク・バッチング | 類似タスク(メール、承認、レビュー等)をまとめて連続処理し、切替回数を減らす。 | まとまり単位で一括ブロック確保。ブロック間にクールダウン。 | 定型・小タスクが多い仕事。 |
| マイクロブレイク(短い休憩) | ≤10分程度の小休止を頻繁に挿入し、活力回復と疲労軽減を狙う。 | 固定ではなく状況適応。日合計で休憩比率を確保。 | 長時間の知的労働・画面作業。 |
| 休憩比率ルール(観測系) | 52/17・112/26・75/33など観測上の作業/休憩比を参考に、比率で回復設計。 | 分数に固執せず比率で調整。 | 自己観察で最適比を探りたい人。 |
| 深い仕事(Deep Work) | 気が散らない状態で難度の高い作業にまとまって集中する実践。 | 長尺ブロック+意図的な休憩。 | 学習、研究、執筆、設計など高認知負荷。 |
| タイムボクシング(Timeboxing) | 個々のタスクに「締切つきの箱」を割り当て、終了時点で強制停止(スコープを調整)。 | 固定長の箱+ハードストップ。短いバッファを併設。 | 終わりが見えにくい仕事、完璧主義対策。 |
